スペシャルインタビュー


スペシャルインタビュー
薬剤師の就職状況はどのように変化するか
資格の活用法
6年制国家試験はどう変わるのか
学校薬剤師の活動
2025年の日本を支える薬剤師に送る

学校薬剤師の活動


【プロフィール】
守谷 まさ子 先生

【プロフィール】
児島惠美子
Medisere 社長

 

1975年: 京都薬科大を卒業、大津赤十字病院にて薬剤師として働く。
結婚、退職し、子育て専念。35歳の時、3人目を出産したが、早々に亡くなる。
気分を代えるため家庭から外の世界に出て、薬剤師の仕事を再開。
その第一に選んだのが学校薬剤師の仕事。
平行して、調剤薬局、病院と勤務。勤務しながら、武庫川大学院入学。
2007年3月: 武庫川大学院卒業
2002年: 京都府学校薬剤師会本部役員、常務理事を経て、京都府学校薬剤師会副会長、並びに京都府学校保健会副会長を務める。
2006年: 京都府学校薬剤師会会長、京都府学校保健会会長就任。
2007年: 中央教育審議会スポーツ・青少年分科会、学校健康・安全部会専門委員。


児島 : こんにちは。私と守谷さんは武庫川女子大学の夜間大学院で同期生だったのですが、今年卒業してからも交流させていただいており、今回の対談が実現しまし た。最近京都府学校薬剤師会の会長をされていらっしゃると知り、最初にうかがいたかったのは「どのようなきっかけで学校薬剤師として活躍されることになったのか」ということです。このあたりを聞かせてください。


守谷 : 京都薬科大学を卒業してから病院薬剤師をしておりましたが、結婚することになり退職しました。その後は専業主婦として、子育てに専念していました。35歳 のときに3人目を出産しましたが、残念なことに早々に亡くなってしまいました。そこで気分を変えようと家庭の外に出て、薬剤師の仕事を再開することにしま した。そのような時に地域の薬剤師会からの募集があったので、第一に選んだのが学校薬剤師の仕事でした。


児島 : 私も家庭があり、子供もおります。守谷先生のお気持ちはとてもわかる気がします。私は結婚・出産後も仕事を続けています。主婦として、母としての役割をこ なすことは大変ですが、とてもやりがいがあります。しかし、仕事には仕事でまた違ったやりがいがありますよね。家庭に入られる前には病院薬剤師として第一 線で活躍されていたわけですから、もう一度仕事に打ち込まれることで新しいやりがいを発見されたわけですね。


守谷 : はい、そのとおりです。もともと子供が好きですので子供との出会いやふれあいは私の生活のビタミンとなっています。


児島 :具体的に、どのような活動をされているのでしょう。


守谷 : 学校薬剤師は、憲法、教育基本法をうけ、その仕事の内容は、学校保健法によって定められています。また、その内容は、児童生徒の学習環境の健全な状況つま り、学校において、換気や採光、照明及び保温などが適切かどうか、清潔を保ち環境衛生の維持のために様々な指導や助言をおこなっています。具体的には換気 指導などがこれにあたります。これからの季節、寒くなればなるほど、教室は窓もドアも締め切ってしまいますよね、その閉ざされた空間に、子どもたちが30 人前後、小学校の生徒から、体の大きい高校生までがおおよそ180立方メートルの教室の空間に二酸化炭素をはき出している状況を想像してください。なんだ か息が詰まりそうに感じませんか?


児島 :確かに、息苦しい感じがします。ですが、寒くなればなるほど窓を開けたく無くなりますよね。


守谷 : そうなんです。外気が冷たくなればなるほど、隙間は作りたくないし、暖房を入れて、暖かくしますよね。そんな中で、一人でも風邪やインフルエンザにかかっ た子どもがいれば、みんなに感染してしまうことは火を見るより明らかです。また、病気にならなくても、小学生でしたら、1時間あたり、0.011立方メー トルの二酸化炭素を放出していますし、高校生ではこの2倍の量を放出しています。


児島 :小学生と高校生ではそんなにも違うものなんですか!

守谷 : はい。外気の二酸化炭素濃度は、おおよそ300ppm(ppm=100万分の一)です。学校環境衛生の基準に定められた二酸化濃度は1500ppmですか ら、教室が、外気と同じ二酸化炭素濃度であったと仮定し、その中で、30人の高校生が二酸化炭素を一時間吐き出せば、この基準値以内に収めようとすれば、 少なくとも4回は換気する必要があります。でも実際は、午前中ほとんど換気されていない場合が多く、ひどい場合は、測定すると、 3000ppm~4000ppmという結果がでてきます。そんな場合は、検知管の変色範囲が基準を大きく上回っていることを子どもたちに見せ、換気の必要 をその場で話します。また、その後いっせいに窓を3~5分間開けてもらって、すぐ窓を閉め、その後ですぐに測定をします。とうぜん、それまでよりずっと下 回った結果がでることがほとんどです。


児島 :え、生徒の前で実際に測定されるのですか。


守谷 : そうですよ、これが一番効果的です。この測定によって、換気の効果が非常に大きいことを実感してもらいます。それと同時に、その時の室温は、ほとんど 1~2度くらいしか下がらないことも見てもらいます。寒くなるとの思い込みをなくし、換気をおっくうがらないようにしてもらうことも大切だと思っています。


児島 :換気するともっと室内温度が下がる様な気がしていましたが、その程度のものなのですね。これからはMedisere(メディセレ)でも換気するよう努めます。国試受験では勉強もさることながら、健康管理も非常に重要ですから。


守谷 : その通りです。ちょっとおもしろい結果があるのですが、ある学校内の二酸化炭素濃度測定を行いました。どこが一番二酸化炭素濃度が高かったと思います?



児島 :
ん~、「おもしろい結果」ということは児童達のいる教室ではないのですよね…。


守谷 : はい。そうです。実は、「職員室」だったんです。


児島 :えっ!確かに、言われてみるとそうかもしれませんね。なるほど、職員室ねぇ、灯台もと暗しですね。


守谷 : その学校の職員室の二酸化炭素濃度は4500ppmを超えており、ブッチギリでした。(笑)

児島 :数値は真実を語りますね。


守谷 : はいそうです。そういえば、数値で思い出しましたが、学校薬剤師は照明環境調査の依頼も受けます。「どうしても暗く感じられて仕方がない教室があるので、 明るさ測定をしてほしい」などという依頼です。梅雨のときや、冬場の時期は、特に暗さを感じがちです。また夏に向かっての時期は、校舎の外が明るいだけ に、校舎内が暗く感じるときがあります。また、古い校舎は、配線の具合や物が少なかった時代の照明配置であり、照明の数自体が少ない場合もあります。増築 された場合などは、図面の上では想像できなかった場所で、暗くなっていることがあります。どんな場合も、照度を測定し、その結果を持って指導助言をしてい ます。ですから、ほんとに暗かった場合もありますし、そうでもなかった場合もあるんです。


児島 :なるほど、これまた数値が真実を語るわけですね。


守谷 : そうです。その他、学校薬剤師の仕事で皆さんご存じないであろうものに、机・椅子の管理があります。学校で使用する机や椅子が児童・生徒の体に合わない と、学習能率を低下させるだけでなく、背柱の湾曲や近視などの誘因となるおそれがあります。したがってこれらの適正使用や管理も行うのです。さらに机や椅 子が破損していないか、清潔であるかという面からも検討します。児童・生徒が長時間使用する机、いすの整備は、それぞれの児童、生徒に対して適合状況を把 握し、適切に管理することが必要です。机と椅子の管理というと一般的な薬剤師のイメージとはかなり違うと思います。


児島 :ええ!机や椅子の管理も学校薬剤師業務の一部だったのですか?知りませんでした。


守谷 : 他にも、保健室の薬品についての使用上の注意や保管上の注意などについて指導、助言をおこないます。それから、理科室の毒・劇物薬品や引火物などは適正に 保管されているか、地震などの災害時の対応はどうか、また、不用薬品の廃棄については、水質汚濁防止法などに従って処理するよう指導しております。


児島 : 結構幅広いのですね。薬局薬剤師とはまた違った知識が要求されますね。勉強も必要ですし大変ですね。様々なご苦労をされていると思いますが、やりがいというか、この仕事を通して嬉しかったことは何でしょうか。


守谷 : そうですねぇ、嬉しいことは他愛もないことですが、子供達が「なにしてるの?」って興味を持ってくれることでしょうか。単純に「なにしてるの?」っていう 疑問を持ってくれるだけでも嬉しいものです。また高校生くらいになりますと先ほどお話ししたように、空気検査結果を生徒達に報告し、説明すると、換気が必 要であることを実感してくれ、実際に行動してくれます。また、生徒だけでなく、学校関係者の方々にも様々な情報を提供し、説明をします。ここで環境調査の 必要について理解を得たときは嬉しいですね。学校保険法に「学校医、学校歯科医及び学校薬剤師は、学校における保健管理に関する専門的事項に関し、技術及 び指導に従事する。」とあります。この義務を果たせたと感じた時には、喜びだけでなく、やりがいが生まれます。最近は、「薬物乱用防止」の授業として、小 学生向けに、アルコールの話やタバコの話し、中学生や高校生には、覚せい剤を含めた話をしてきましたし、昨年度からは「薬の正しい使い方」について実験を 入れながら、小学生から高校生対象に話をしたり、学校保健会や父兄対象に話をしています。


児島 :なるほど。学校薬剤師というのは、私がイメージするよりも人とのふれあいが多い仕事なのですね。私も講師という仕事をしていますので、相手に何かを伝えることができたときには喜びを感じます。


守谷 : そうなのです!知ってほしいことの何分の一でも伝えることが出来た時や、学校保健会などで、予防に関しての情報提供などで喜んでいただくと、嬉しいですし、やっていて良かったと思います。相手は児童・生徒であったり、先生であったり、保護者であったり様々ですが、喜びの大きさは同じです。


児島 :では、守谷先生。ぶっちゃけ、困ったことってどのようなことなのでしょうか。


守谷 : はい、簡単に言いますと先ほどの内容の逆のパターンですね。学校に出向いて、学校薬剤師の仕事に理解がない学校関係者に出会うと本当に困ってしまいます。 なんと言っても学校薬剤師の活動は「予防」です。予防というのは、リスク回避であり、その効果を実感しにくいところに障害があります。学校は清潔で当たり 前、その当たり前を維持するのが学校薬剤師の勤めです。「当たり前のことができているのは当たり前」、そんな風に思われます。そういった中で、学校薬剤師の必要性を社会の多くの人にご理解いただこうとすると、今以上の努力が必要になります。


児島 :確かにそうですね。リスク回避は直接的な利益を生み出しません。ご理解いただくまでに時間がかかることもあるでしょうね。しかし、医学で最も重要なのは 「予防医学」とされています。疾病を未然に防ぐことが、患者さんにとって最もありがたいことです。さらに医療費の削減にも最も有効ですものね。他に何かあ りますか?


守谷 : 学校薬剤師会会員から「指導・助言しても改善されません。」という不満の声を聞くこともあります。しかしこれには、改善のための費用を学校に手当てできない市町村の金銭的問題もあり、解決がとても難しいのです。


児島 :なるほど。市町村の金銭的問題となると、ただ指導を行うだけでは改善は難しいですね。私がアメリカのシアトル州薬剤師会会長Rod Shaferさんに「先生がなさっている具体的な活動は何ですか。」と聞いてみたところズバリ「政治活動」とおっしゃっていましたね(笑)。学校薬剤師会としての活動にはどのようなものがあるのでしょう。


守谷 : 解決のために政治的な活動が必要な問題も無いことはないですが、現在のところ政治の世界とは全くご縁がありません。現在の学校薬剤師会の活動は大きく4つあります。


1.会員教育および情報発信
2.他団体との連携
3.学校薬剤師活動調査及び各種情報収集
4.学校での保健活動

研 修会を開催して会員教育を行います。また、「薬物乱用防止教室」などを開き、地域の多くの方々へ情報発信もいたします。全国的な活動としては、年に一度開 催される学校環境衛生・薬事衛生研究協議会など全国的な活動にも参加し、様々な講義を聴講したり、研究発表を行い質疑応答、討論を行います。

児島 :研究発表まで行うこともあるのですね。想像以上に学校薬剤師の活動の範囲は広いのですね。では、今後の学校薬剤師の活動やあり方について、ご提案はありますか?


守谷 : はい。たくさんありますが、地味な学校環境の維持管理の仕事の重要性を理解していただくよう、父兄に良く知っていただくよう今以上にアピールしていきたい と思っています。まさに児島さんの言われた「予防医学の重要性」をもっと多くの人にご理解いただきたいと思っています。そうすることで、学校薬剤師の活動 も今以上に活発になるはずです。


児島 : そうですね。「予防医学の重要性」を一般の人々に知ってもらうには地道な活動が必要でしょう。また時間もかかると思います。しかし、衛生環境を整えるには最も理想的な方法ですね。


守谷 : あとは残念なことですが、学校薬剤師の中には、忙しいことを理由に「勉強ができない」、「学校に行って検査できないとい」とおっしゃる方がいます。
個人個人で抱えていらっしゃる仕事内容は異なるのでこの方達ばかりを責めるわけにはいけません。したがって、仕事上の問題を抱え、学校薬剤師としての活動が十分に行えないのであれば、ぜひ活動可能な薬剤師にバトンを渡して欲しいと思います。
また、学校薬剤師会では、バトンタッチを行いやすくするシステムを作る必要性も感じております。また、私立学校の学校薬剤師の方々もぜひ、学校薬剤師会に入って、研修などに参加していただき、今よりいっそう充実した活動をしていただきたいとも考えています。学校薬剤師をなさっている方々の中には、「何を、どこますべきかわからない。」という方もいらっしゃると思います。ぜひ学校保健法(もちろんそれ以外の法律もですが)をもっと勉強していただき、学校薬剤 師として今まで以上に自信をもって学校での保健活動に当たっていただきたいと思っています。
私自身、調剤薬局、病院に勤務しながら、学校薬剤師としての活動をしてきましたが、過去の大学教育のままでは自分自身が薬剤師として力不足であることを感 じていました。悶々とする日々を過ごしていましたが、ある本で武庫川女子大学大学院医療薬学教育の社会人受け入れがあることを知ってすぐに入学を決意しま した。


児島 :そこで守谷先生と私の出会いがあったわけですね。


守谷 : そうですよ。社会人大学院に通うことで得たものは大きかったですね。児島さんとの出会いもそうですが(笑)。二人とも無事卒業できて良かったですね。


児島 :本当に。つい半年ほど前まで私たちは女子大生(?)でしたね(笑)。それでは、これから薬剤師を目指す学生に何かございますか。


守谷 : そうですね。児島さんもそうでしたが、特に学生さんは学校薬剤師の活動が何であるか、ご存じないと思います。ですので、まずは「学校薬剤師というものを 知って欲しい」ということです。また、学校薬剤師に関する専門教育を行う薬学教育機関はほとんどありません。衛生薬学で少し保健、衛生環境について学ぶく らいでしょうか。学校薬剤師を育成する専門の学部も研究室もありません。薬科大学の皆様、学校薬剤師を養成するシステムを作ってください!お願いします! (笑)


児島 :守谷先生の切なる願いですね。


守谷 : それではお願いついでにもう一つ!日本薬剤師会と日本学校薬剤師会の連携がさらに強化されると嬉しいですね。連携強化により、学校薬剤師を含めすべての薬 剤師の更なるバックアップが可能だと思っています。このようなバックアップがあれば学校薬剤師を始め、個々の薬剤師の活動の大きな原動力となるはずです。 このような活動が実現するようがんばっていきたいと思っています。


児島 : なるほど、すばらしいですね。私は講義中に学校薬剤師の仕事について話をしておりましたが、この対談により学校薬剤師の活動について、意外に知らないこと が多いということに気づきました。集団が生活する学校という現場で、予防医学を実践する学校薬剤師の理解に、この対談が少しでも役立つことができれば幸いです。今日はどうも有り難うございました。


守谷 : こちらこそ。ありがとうございました。


資料提供:薬剤師国家試験 予備校 Medisere(メディセレ)