スペシャルインタビュー


スペシャルインタビュー
薬剤師の就職状況はどのように変化するか
資格の活用法
6年制国家試験はどう変わるのか
学校薬剤師の活動
2025年の日本を支える薬剤師に送る

2025年の日本を支える薬剤師に送る


【プロフィール】
平野 健二 先生

【プロフィール】
児島惠美子
Medisere 社長

 

1959年:5月28日生まれ。
1982年:一橋大学商学部経営学科卒業後、アメリカへ渡る。
1985年:サンフランシスコ州立大学でMBAを取得する。
帰国後、大手製薬企業で経験を積み、サンキュードラッグに入社。
1994年:オールジャパンドラッグ株式会社取締役に就任。
2003年:株式会社 サンキュードラッグ代表取締役社長に就任する。
2007年:北九州市産業雇用戦略会議審議員も就任。
このほか、共立大学非常勤講師、市立北九州大学非常勤講師も兼任し、教育にも熱心に取り組む。


信頼される薬剤師像


児島 : 平野社長は、アメリカに留学なさってMBAを取得されていますが、アメリカの薬剤師の存在はどのようなものでしたか?


平野 :1980年代から約20年間、2001年9月11日まで、アメリカにおいて薬剤師は「信頼される職業No.1」の地位を獲得・継続しました。その後薬剤師に代わってトップの座に就いたのは消防士であり、それに次ぐ地位を得たのは看護師です。


児島 : ということは「薬剤師の地位が下がった」ということなのでしょうか?

平野 : 薬剤師は決して地位を下げたのではなく、あの、すべての人の記憶に残る事件で消防士や看護師が命を賭して活躍する姿に人々が感動を覚えたからに他なりませ ん。アメリカと日本、法律や国民性は異なりますが、何が人の心を打ち、信頼の基となるかにおいて、極端な相違はないような気がします。


児島 : なるほど。では薬剤師は今も尚、「最も信頼される職業の一つ」と考えて良いわけですね。では、薬剤師が信頼され続けている理由とは何でしょうか?アメリカでは、いち早く薬剤師の6年制教育に取り組んでいますよね。


平野 : その信頼は、決して6年制教育によるものだからでないと私は考えています。そもそもアメリカで6年制課程の卒業生が活躍を始めたのは1990年代後半に なってからだという事実に、容易に裏付けられます。実はもっともっとはるかに地味な、それでいて身近な存在であり続けたことにその最大の要因があったこと を、私たちは知らねばなりません。


児島 : そうですね。確かにアメリカの医療では、プライマリーケアは薬剤師が担当していると聞きます。薬剤師の存在が最も身近で、社会の人々への貢献度が高いからこそ信頼を得ている、そういうことですね。


平野 : アメリカで華やかな仕事と言えば、政治家、実業家、弁護士、医師がその代表でしょう。しかし彼らは高収入や権力故に「憧れの職業」に成り得たとしても、 「信頼される職業」には程遠いのです。医師や弁護士に相談を持ち帰ればそれこそ「1分いくら」で請求書が届きます。それが高収入の基礎になっているわけで すが、その点、薬剤師はドラッグストアの店頭でいつもにこやかに私たちを迎えてくれ、相談には「笑顔で喜んで」「無料で」応じてくれるのです。


児島 : アメリカではある程度の収入が無ければ、医師の診察を受けることも難しいですからね。確かにそのような社会では、薬剤師の必要性は高いはずです。しかし、 プライマリーケアを薬剤師が担うということは、薬剤師に内科医と同程度、またはそれ以上の知識とコミュニケーションスキルが必要になりますね。


平野 : そうです。アメリカの薬剤師は、日本の従来の薬剤師に比べてはるかに幅広く深い医療に関する知識を持っていて、それがベースにあることはもちろんですが、 そのことは当然のことであって、その知識を、我々の日常生活に生かしてくれることに価値があるのです。学生の皆さんも、大学のある教授がいかに研究面で優 れた方であったとしても、その方が学生に伝える努力をなさらないとしたら、決して優れた教育者と呼ばれないことをご存知のはずです(だからと言って、学生 が自分の「知る努力」をおざなりにしてはいけません)。


児島 : その通りですね。それこそ高いコミュニケーションスキルが必要になりますね。日本の6年制カリキュラムでも5年生以上は、コミュニケーションスキル向上に大きなウェイトが置かれています。また、社会貢献をするために高い意識も必要とされています。


平野 : アメリカでは、私たちが店頭で相談したからといって、そのために薬剤師から料金を請求されることはありません。保険制度の違いもありますが、相談に乗るこ とは何ら直接的に経済的メリットをもたらさないのです。薬剤師は「薬物療法を通じて生活者のquality of lifeを向上させる」ことが仕事であって、「薬を売ること」や「相談にのること」で収入を得るのではないと、学生時代から徹底的に教育されます。


児島 : なるほど。アメリカではそのようなプライマリーケアを担う薬剤師としての精神教育もすでに行われているのですね。


平野 : 私は2004年にニューヨークのSt.John’s大学、2007年にオレゴン州立大学で薬学教育の視察をさせてもらいましたが、いずれにおいても、薬学 生は専門教育課程に進む段階で「何故薬剤師になりたいのか」、その動機を徹底的に問われます。その動機や信念が薬剤師にふさわしくないと判断された場合に は、決して臨床薬剤師(Pharm.D)のコースに進学することはできないのです。


児島 : アメリカでは入学する段階で、また、進学する段階で、学生が高い意識を持っているのですね。日本では、理想や高い意識を持って入学する学生もたくさんいま すが、「何となく」、「資格が欲しいので」、「親の勧めで」という薬学学生も多いと思います。この徹底的な動機づけ、意識付けが質の高い薬剤師を生み出し ているのですね。


平野 : 私は、アメリカの薬剤師に関する著述をする際に必ず、「信頼の基になっているのは、もちろんしっかりとした知識や技術の裏付けによるけれども、その上で (1)easy access(=ドラッグストアの店頭でいつでも気楽に話しかけられる)(2)free access(=相談に対して金銭をチャージされない)ことで身近な存在になっていることが大切なのです」と述べてきました。今回、そのことを確認の意味 でアメリカの業界専門誌「ドラッグストアニュース」に44年間携わり、現在副社長を務めるMr. Jay Forbesにぶつけてみました。彼の答えはこうでした。「君の分析は全く正しい。でも、それにあえて一つ付け加えるとしたら、アメリカで数万人いる薬剤 師が、企業に勤める者としてどんなに利益をもたらす薬剤や医療行為があるとしても、プロの医療人として、目の前にいる患者さん(相談者)にベストと自分が 信じる行為を実行することを優先してきたことだ。」もちろん、このことは気づいてもいたし、社内研修でも折に触れて言ってきた事ではありましたが、薬剤師 に対する信頼の基として必ず付け加えるべきであったと、改めて思わされた次第です。


児島 : 確かに、「患者にベストを尽くすこと」これが根底に無ければ、これほどの「社会からの信頼」を得ることは難しいでしょう。

信頼の裏付け


平野 :薬剤師が身近な存在であることの重要性は前段で述べさせていただきました。では、「身近な存在」は、薬剤師の生活者に対する姿勢だけで表現されるのでしょ うか?答えは「否」であります。知識的・技術的な裏付けに加え、生活者の健康の悩みに直接触れることのできるポジションを、長年にわたって築いてきたこと を忘れてはなりません。


児島 : 確かに、日本では近年、医薬分業が進み、患者様と薬剤師がコミュニケーションを取る機会が増えてきました。しかし、これもここ十数年の話です。アメリカでは、日本よりも早くこういった患者様とのコミュニケーションが行われてきたのですね。


平野 : ある薬剤師を「身近な存在」と感じる大前提は、その薬剤師に触れる機会が多いことです。たまたま病気をした時に一度だけあっても、「頼りになる」とは感じ ても、「身近な存在」にはなりえません。身近で頼りがいのある薬剤師になるプロセスは3つあります。まず、第1のプロセスは、「調剤とOTC、健康食品の 総合的なアドバイスができる」ことです。


児島 : 確かに、服薬指導だけでなく、OTCや健康食品、サプリメントなど、セルフメディケーションに関する相談に乗ることで、圧倒的に薬剤師とのふれあいのチャンスが増えますね!

平野 : そうです。ドラッグストアは、20世紀の間は都心立地で物販中心の安売り店でしたが、高齢社会においては、住宅地を中心に半径500m(高齢者の足で徒歩 10分)の来店者が多数派となります。病気になった人だけではなく、病気が心配な人、病気にならないよう努力をしたい人の良きアドバイザーになれたら、い ざ病気で来店された時に、併用薬や配合禁忌で失敗することがないばかりか、体質や生活習慣に合わせたアドバイスを提供したり、処方した医師に何らかの進言 すらできるでしょう。


児島 : 今後は医療用医薬品のみならず、幅広い相談に薬剤師が積極的に関与しなければなりませんね。このためには、今まで以上の知識が要求されます。知識もないのに関与できませんから、薬学生、薬剤師は、当然勉強しなければなりません。現在、生涯教育や大学院へ進学する現役薬剤師が多いのも、このような勉強の必要 性をみんな感じているからだと思います。


平野 : 薬剤師さんの中には、「OTCや健食まで勉強したくない」とか「効き目も大したことない(証明されてない)ものに携わりたくない」という方もいらっしゃる でしょう。では、これらすべての方に医療機関へ行っていただくように進言するのでしょうか?コスト面でも大変なことになります。でも、それ以上に大切なこ とは一般の方の健康や医療に対する関心を高めることに、薬剤師が協力するのかしないのかというところです。あまり効果を期待できない薬もあるでしょう。民 間伝承を信じ込んでいて、なかなか手に負えない患者さんもいるに違いありません。これを頭から否定するのではなく、普段から相談に乗り、信頼を得ること で、本当に大切な時に大きな役割を演ずることができるのです。


児島 : 確かに、このような相談に乗ってくれる「身近な存在」は、社会にとって必要不可欠です。また社会的貢献度も非常に高いですね。今後、医療費(医療保険支 出)を抑制するために、多くの医療用医薬品が保険適用をはずれ、OTCスイッチされる動きがあります。第92回薬剤師国家試験(2007年3月実施)で も、スイッチOTCに関する問題が初めて出題されています。


平野 : そうです。患者数は高齢化によって増える一方で、医療費抑制調剤のため、医療用医薬品の単価や保険適用の範囲は縮小の方向にあります。「調剤しかできな い」薬剤師の運命はお寒いものがある。一方、医療用医薬品(調剤)、現在医療用医薬品からスイッチされるOTC、既存のOTC、健康食品を総合的に理解 し、うまく使い分けのできる薬剤師は非常に身近で、貴重な存在になります。


児島 : よくわかりました。では、「身近で頼りがいのある薬剤師になるプロセス」の2つめは何でしょうか?

平野 : 第2のプロセスは、「予防医療への関わり」です。


児島 : 予防医療は、患者のQOL向上にも重要ですが、もう一つ、経済面でも大きな効果がありますよね。


平野 : はい。2006年度で総額33兆円(国民一人当たり25万円)かかっている医療費は、高齢化と共に増え続けます。国(医療保険)で負担する額だけを見て も、2025年には56兆円と予測され、国はこれを48兆円に抑えるべく施策を練っています。医療費には、医療を受けた人が払う自己負担分がありますが、 これは徐々に上がって既に3割に達しており、「保険=困ったときに頼りになるもの」という性格からすると、これ以上、なかなか引き上げにくいものがありま す。また、給与(とボーナス)から天引きされる保険料は政府管掌保険で8.2%ですが、2025年には現役世代と引退世代の人口構成比が1.6倍になる (現役一人が支える高齢者数が6割増える)ことを考えると、この負担率を上げることにも限界があります。医療保険の他に天引きされる「税金」「年金」「介 護保険」などを加えると、2025年には総収入に占める可処分所得は36%しか残らなくなります。こんな国に住みたいと思う人はあまりいないでしょう。


児島 : とくに、年金暮らしの高齢者にとっては、生活上の大きな問題になってきますよね。


平野 : こうなると、矛先は、今まで高収入を得てきた(と多くの人が思っている)医師や薬剤師に向かうかもしれません。こうなると「信頼される職業」どころの騒ぎではありません。薬剤師は国民の敵・いけにえとみなされるかもしれないのです。


児島 : 大げさな話ではなく、本当にそういう時代がやってくるかもしれません。そうならないためにも、そして何よりも日本に住む人が幸せであるために、「予防」が重要ということですね。


平野 : ここに、一つの統計数値があります。私の住む福岡県は、県民一人当たりの医療費が全国でワースト3(高い)に入ります。高齢者に限って言えば、全国平均の 一人当たり年間60万円に対して90万円で、全国トップです。一方で長野県は20年ほど前、極めて高かった医療費が徐々に低下し、今や最も医療費のかから ない県になりました。明確な裏付けはありませんが、長野県は健康診断の受診と早期の対応を進めてきており、受診率は全国最高です。そして福岡県は受診率が 全国最低なのです。早期に健康状態をチェックし対応することが、何よりもまず、大きな疾病を予防し、元気な長寿を実現し、結果として医療費も抑制できると いうことを暗示してはいないでしょうか。


児島 : 非常に興味深い統計データですね。これほどまでに健康診断と早期受診が大きな影響を持っているとは知りませんでした。ですが、経済的な面から医療を見ていると、少し患者様中心の視点、からズレてしまうような気がしますが…。


平野 : 医療に携わる方の中には「医療費」を語ることを嫌う方もあると思います。もちろん医療費を下げることが至上命題なのではなく、生活の質が大切なのですが、 医療費という「数字」は、疾病に苦しむ人が少ないということの「指標」として参考になります。また、節約した医療費は、保険適用の範囲外にある難病の治療 に使うことも可能です。何千万円の募金を集めて外国で手術を受ける方の話が時々報道されますよね…こんなことも、無駄を省けばなくなるはずです。


児島 : 数字は、間接的に患者のQOLの指標となるわけですね。


平野 : このように「予防」は経済的にも生活の質にも重要な役割を演じます。ましてや、昨今話題のメタボリックシンドロームなどは普段の生活の中で改善できるので すから、是非取り組まねばなりません。すぐには成果が出にくいが故にくじけやすい潜在患者を励ます身近なアドバイザーとして、薬剤師の役割は大きいものが あります。


児島 : なるほど。よくわかりました。では、最後の第3のプロセスとはどのようなものなのでしょうか?

平野 : 第3のプロセス、それは、「介護」です。誤解を生まないために申し上げますが、タイトルをあえて「介護」としたのはわかりやすいためです。より実情に近い言葉で表現すると「在宅」というのが、私たちの取り組むべき課題です。


児島 :在宅と言えば、高齢者医療をイメージします。またまた経済的なお話になりそうな予感がしますが。


平野 : はい。またしてもお金の話です。つまり、それほど日本の医療財政は逼迫しているのだ、とご理解下さい。ある患者さんが病院という名の、医師、看護師を常駐 させた環境に置くのと、家庭にいるのでは大きなコスト差が発生します。医師のサポートを受け、看護師やヘルパーが常駐する介護施設にいるのと、家庭を比較 しても同様です。


児島 :確かに、現在国は、入院日数を削減する施策を進めていますね。


平野 : そうです。わかりやすく言えば、癌の手術を待つ患者には手厚い体制が必要ですが、手術を済ませた人はがん患者ではなく「外傷が癒えるのを待つ」人と考える わけです。そこで求められる看護体制は、間違いなく異なります。さらに言えば、何か変化があった時の体制さえ担保すれば、在宅でも良いということになりま す。また、入院そのものを減らすことにもつながります。


児島 : そういえば、アメリカでは出産や盲腸手術など、日帰りだそうですね。


平野 : はい。つまり、アメリカでは、入院するということは、絶対的な医師の必要性があるかどうかで判断されるのです。繰り返しますが、多くの日本人が不安になる このような仕組みにすべきだと言っているのではありません。しかし、このまま行くと発生する高負担を皆さんが耐える覚悟があるのか、医療保険でカバーされ ない治療に手を差し伸べるのか…こういったこととのトレードオフで考えねばならないことを理解して欲しいのです。


児島 : トレードオフ、つまり私たち日本人は、大きな選択に迫られている、ととらえなければならないわけですね。


平野 : その際、在宅となる「従来ならば入院(施設に入居)しているであろう方」や、「特に病気ではないけれども高齢であるが故に不安な方」に安心を提供するのが 薬剤師の大きな使命になるのです。また、癌の末期など、「治る」ことよりも「生活の質」「満足度」に重点が置かれる患者さんであれば、家族と過ごせる「在 宅」は目標にすらなり得ます。普段から身近な相談相手であれば、愚痴や悩みをお聞きすることから始めて、適切なアドバイスを提供することができます。枕元 で勇気付けることもできるでしょう。家族の負担を軽減するための提案や、在宅を可能にする機器(酸素や心電図計など)や薬剤の提供(麻薬など)という業務 も発生します。


児島 : もちろんそこでは、薬剤師だけではなく、医師や訪問看護、社内でも栄養士などとの連携が発生しまね。平野社長のお話で、今後の薬剤師のあり方が見えてきま した。

アメリカの制度と薬剤師


平野 :日米間で様々な違いは存在しますが、薬剤師の立場の違いを最も象徴的に表すのが「Refill(リフィル)」です。Refillと は処方箋の繰り返し利用を可能にする制度で、糖尿病や高血圧など慢性疾患において、毎回医師の診察を仰ぐことなく、最長2年間、薬剤師の責任で医薬品を提 供する制度です。また、薬剤師は必要に応じて処方箋の書き換えすらできる場合があります。


児島 :日本との大きな違いですね。日本の薬剤師は、処方権はもちろんのこと、疑義照会は行っても書き換えはできません。アメリカではなぜそのような制度を採っているのでしょうか?

平野 : 患者さんの立場からすると、毎回ドクターに会う(診察を受ける)事の最大の負担は「時間」です。多くの場合、勤務を抜けて午前中に来院することになります が、特に慢性疾患においては、そこで重要な問診が行われることは少ないのです。「お変わりありますか」「いえ、特に」「それではいつものお薬を出しておき ましょう」という展開を経験された方は多いでしょう。その際、診察料というコスト、再度薬をそろえるコストがかかっていることも忘れてはなりません。


児島 : これは日本も同様ですね。慢性疾患の患者様にとってこのやりとりは、時間、経済コストの面での負担が大きいのは、日本もアメリカも同じですね。 Refillの制度が施行されれば、患者様は必要なときに薬局に薬をもらいに行くことができますね。ドラッグストアであれば、夜10時にもらうことも可能 でしょう。もはや、病・医院の都合ではなく、自分の都合でスケジュールを組み立てることが可能になりますね。


平野 : はい。また、1~2年も続けてきてもらえるとなれば、薬局はその患者さんのお薬を必ず備蓄するでしょう。患者さんは、備蓄を気にせずに「かかりつけ薬局」を選択できるようになるのです。


児島 : ただし、その際、薬剤師は大きな判断を下さなければなりませんね。


平野 : そうです。ある病気が進行するとき、治るとき、現われる症状を知らなければ、その薬を連用してよいかどうかの判断がつきません。すなわち臨床(病理)が必 要になるのです。薬の増減や処方変更など、きめ細かい知識も必要です。長期に及ぶ治療では、体調・体質の変化や併用薬の問題もあります。


児島 : そうすると、こうしたことをうまく聞き出し、適切な処方を考えた上で、患者様に納得してもらい、きちんと飲んでいただいて、メディケーション(ファーマシューティカルケア)を完成させなければなりませんよね。この時には、高い「コミュニケーション力」が要求されますね。


平野 : その通りです。アメリカではこのコミュニケーションスキルを向上させるためのプログラムが多く組まれており、徹底した教育を行っています。


児島 : 薬学教育も大きな変革期を迎えており、6年制のカリキュラムでは、アメリカと同様に「コミュニケーションスキル」の向上にウェイトを置いたものとなっています。


平野 : 話は変わりますが、日本薬剤師会が2003年頃に大手シンクタンク2社に委託した調査によると、現在52000店ある保険(調剤)薬局は2015年までに は20000~25000店に減少することになっています。「50000-25000=25000だから、半分なくなるのか」と考えて、「自分の店は半分 より上にいるから大丈夫」と思ったら大間違いです。現実社会の算数は下記のように働きます。

「50000-35000+15000=25000」

これまでのルール(分業推進)で生き残ってきた薬局の大多数は、医療費抑制という新しいルールでは生きていけないということです。そして、新しいルールに適応した21世紀型調剤薬局が出現し、そちらが主体となるのです。


児島 : となると、現在のような「開業医1軒ごとに1軒の調剤薬局」が存在するという状況は、一変しそうですね。


平野 : はい。薬局の立地は、医療機関隣接から、生活者の利便重視へと変わります。生活者の利便を満たす薬局のあり方は、皆さんにも想像がつくはずです。基幹病院 は入院を要する患者のための施設となりますから、外来は大幅に減少します。病院前の門前薬局は激減しますが、1~2軒は残るかもしれません。門前ですぐに 薬をもらいたいというニーズを満たすには、門前は便利だからです。開業医のマンツーマンは、処方箋単価の下落やコストアップにより、よほど枚数が多くなけ れば経営的に成り立たなくなります。コミュニティ薬局としての価値を発揮するためには、真のかかりつけ薬局として「選んでもらう理由」を明確に打ち出せね ばなりません。


児島 : ただし、そういった薬局のすべてが無くなるわけではありませんよね。


平野 : もちろんです。数的には最も多い減少セクターであることは間違いありませんが、すべてなくなるわけでもありません。医療モールで処方箋の出所を増やすのか、面の処方箋が集まる理由を打ち出すのか、それができた薬局だけが残ることになるでしょう。


児島 : そうなると、ドラッグストアと調剤薬局の境界が無くなりますね。


平野 : 2025年、調剤薬局と言えばドラッグストアを意味するようになっていることはほぼ間違いありません。経営的には、物販と共に存在することでコストを抑え つつ多面的に集客できますし、調剤薬局のように立地を選ばない(医療機関隣接でなくて良い)点も、利便性に貢献します。ITの進化によって、薬剤備蓄体制 や薬歴の共有など、チェーン店のメリットも増強されます。商品としてOTCや健康食品を人材資源として栄養士なども活用しながら、健康に対するトータル サービスが可能となる点も見逃せません。


児島 : 「調剤薬局がドラッグストアと呼ばれる」時代を予感させる動きはありますか?

平野 : 実はサンキュードラッグで既に、ドラッグストアへの処方箋の流れは実証されています。既存店前年比で見たとき、マンツーマン薬局や門前薬局が横ばいもしくはマイナスであるのに対し、ドラッグストアでの処方箋枚数は、ここ3年、30%という高率で伸び続けているのです。


児島 : なるほど。もうすでに処方箋は、動いているわけですね。これはドラッグストア、調剤薬局を多数経営される、平野社長だからこそ見える動き、ですね。貴重なお話を有り難うございました。話題が次々出てきましたので、またぜひ対談の機会を頂戴したいと思います。平野社長の見ているものが、多くの薬 剤師、薬学生の意識と行動によい影響を与えることを切に祈りながら対談を終わります。


資料提供:薬剤師国家試験 予備校 Medisere(メディセレ)